想定外とは言わせないぞぉ?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


今年の秋は随分と駆け足な気がする。
例年だったら、
衣替えで羽織らねばならなくなった長袖の制服がそれは負担で。
ブラウスにブレザータイプのガッコはまだいい、
セーラー服の学校だと、
デザイン的に“暑いなら脱いどけばいい”という臨機応変が通用しない。
生地が薄手の“合服”というのが挟まったとて、
例えば 腕まくり姿は何とも行儀が悪いとされてしまうので。
春から夏へは肌寒ければカーディガンの重ね着が出来るが、
まだまだ残暑厳しい頃合いの衣替えは、
お転婆さんであればあるほど“大我慢大会”でしかなかったのだが、

 「今年は過ごしやすくって助かってますよねぇ。」
 「………。(頷、頷)」

こちらの女学園の制服は、
開校当時から さほど変わってないがため。
それは古風なオーソドックスタイプのセーラー服だけに、
襟元のスカーフ、実はベルト通しに指してるだけなので
その位置をずらせば結び目も簡単に下げられます…とかいった
ある意味“裏技”ぽい融通も利かない、
言ってみりゃ“頑固頑迷”なそれであり。

 「ずんと前期のOGの皆様に言わせれば、
  スカート丈も生地も進化したそうですけれど。」

 「あ、それ、私も聞きました。」

上半身部分もタックが入って、
今時の体型に合うよに進歩してはいるそうで。

 「レトロというか、やや窮屈なところがキッチュというかで、
  これもこれなりで、ファンにはたまらないそうですが。」

 「ファンって何よ、ファンって。」

前々からちょろちょろ出てくるのが、
こちらの女学園への偏愛を
い抱いておいでの層もあるらしいという困った事実で。
最近では、どこぞかの“逢いに行けるアイドル”と同じような感覚で
登下校の様子をこっそり観に来る層もあるらしく。
そういった連中がらみのモバイルゲーム騒動も、そういやありましたな。

 「まま、制服マニアとかフェチとかいう方々は
  どう対処しようと後を絶ちませんから。」

 「〜〜〜〜。」
 「だよねぇ。
  久蔵殿と同じくで、そんな輩と鉢合わせたら、
  アタシも“ぶった切りたい衝動”を 止められる自信がありません。」

そんな薄気味の悪い人が怖いというんじゃあなくて、
不埒な輩が許せないと一刀両断したくなる辺りが、
さすがは、元 お侍。(おいおい)
そして、そんな恐ろしいご意見が、
ふるるっと震えて見せただけの人からよくもまあ引き出せたなぁと、
ひなげしさんとしては、そっちも脅威だったが、
まま、それは今更だから置くとして。(置くのか)

 「過ごしやすいのは確かに助かりますよね。」

例年だったら、練習で汗だくになるのが
体育祭なんて うんざりな理由の1つだったのに、

 「今年は何とも涼しいものだから、
  チアフラッグの練習や何や、
  汗をかいてもそれほど不快ではないですし。」

そういえば、
全員参加の短距離走が苦手だから
体育祭が憂鬱とか言ってたひなげしさんだが、

 「そういや、ヘイさん、
  あの見事なチアフラッグは、アメリカ仕込みなんですか?」

スズカケの木陰での、いつものランチタイム。
三華様たちの間での話題は、
やっとのことで朝寒に間に合えた制服のことから、
間近になった体育祭のお話へと移りかけており。
一部の保護者を悩ませておいでの活劇あれこれのどれにおいても、
実際に武装をぶん回したり駆け回ったり、
ドカバキと勇ましくも賊を蹴り倒したりしていたのは
紅ばら様と白百合様がおおよそで。
そちらは、電脳小町としての活躍が主であり、
こういう催しでも競技の方には気が乗らないらしきひなげしさん。
運動方向は苦手なのかなと思われがちながら、
とんでもございません、
長い棹にて大きな旗をひるがえす チアフラッグにては、
運動神経抜群な久蔵さん以上の切れのよさにて、
見事な演技を毎年ご披露しておいで。(毎年…)苦笑

 「あれへ憧れて、
  ウチへの進学を決める子もいると聞いていますよ?」

 「あらまあ。」

ふくふくした小さなお手々を口許で広げ、
何てことよと驚いて見せた平八だったが、

 「確かに。」

自分の背丈より長いかも知れない長棹をぶんぶんとぶん回し、
風を受けて重さも増していよう大きな旗を、
振り付けの要所要所で、パンと広げたり はらはらとなびかせたり、
そりゃあ勇壮に操る、何とも切れのいい所作は、
ちょっとした武道にも通じているようで、
観た者の心を動かしても不思議はないと、
そこは紅ばらさんにも納得なことであるらしく。
仲良し二人から褒められて、
ますますのこと面映ゆいというお顔になったひなげしさん、

 「まあ、最初に教わったのはアメリカではありますが。」

季節の折々にカーニバルじゃ何じゃが必ずあった、
にぎやかなお祭りの多い町で生まれ育った身ではあり。
学校などのかっちりとした部に所属して
チアリーダーという活動をした覚えはないけれど、

 「隣町との勝負、なんて場で、
  ちょっとした応援団を作っちゃあ、
  大旗を振って見せたりしたくらいなんですけれどもね。」

お箸の先を咥えたまま、ふふーと楽しそうに微笑う。
それ以外には、
七郎次のように物心ついた頃から竹刀を振ってた覚えもなければ、
久蔵のように 物心ついた頃から
大ダンスに登っちゃあ飛び降りてた覚えもないそうで。

 「ただまあ、今となっては思い当たりがなくもないというか。」

五郎兵衛特製、塩むすびとつくねの甘辛煮込み、
プチトマトとキュウリのサラダというお弁当、
ペロリと平らげ、御馳走様と手を合わせたそのまんま、
つくね団子に通されていた串を摘まむと、
指先でクリンと回してから、器用にも片手の先でぴんっと弾き飛ばして見せた。
おやと、特に驚きもしなかったあとの二人が視線で追った先、
風に舞い上げられて躍った木の葉が、
つとんと真ん中を突き通されて、そのまま手近な梢に引っ掛かる。

 「そっか、前世での覚えが。」
 「みたいです。」

ウチの家系は 発想が飛び抜けてるのと引き換えたか、
誰も彼もあんまり運動神経はよくないはずが、

 「私だけ 身ごなしも軽いほう、
  研究所にもぐり込んだ こそ泥を
  叩きのめした武勇伝もありまして。」

いつぞや話した“木の上でのハンスト”も、
ウチの家系の人間じゃあ まず木に登るところからしてアウトですと、
肩をすくめた平八だったのへ、

 「まあ、家系ってのも あんまり当てにはなりませんが。」

世が世なら華族様のお姫様だったろう七郎次が くすすと笑い。
バレエにこそ幼いころから親しかったが、
特殊警棒の両刀使い、楽々こなしておいでの基礎なんてのは、
どこでも拾ってないはずの久蔵・ヒサコお嬢様も、うんうんと頷いて。

 「…電撃。」

そういうツールを開発する方が楽しくてしょうがないから、
体より頭を動かすようになってただけ?
ああそうですよね、きっとそれですよ、ヘイさんと。
久蔵殿のそれは手短な一言をあっさり読み解いた白百合さんのほうが、

 “前世の蓄積がモノ言ってないですかね。”

この顔触れが知り合ったのは高校生になってから。
互いの過去なぞ知りもせず、
ましてや、ややこしい“前世の記憶”だって、
割と最近になってから覚醒したお嬢さんたちであり。
だっていうのに、
寡黙にも程があろうヒサコ様の思うところを、
ご両親や榊せんせえのように長年傍らにいた人たちと同じほど、
そりゃああっさり読めてる恐ろしさよ。


 「さあ、お昼も済んだし。
  今日はリレーの練習ですよ、久蔵殿。」

 「〜〜〜〜。」

 「おや、駆けっこはお好きでしょうに 浮かぬ顔。」

 「追うものが。」


 何ですて、シチさん。

 えっと、
 追うものが目の前にいないのは走り甲斐がないそうですよ。

 ……馬にニンジンですね。


何ともお茶目なお嬢様たち。
微妙な会話になっておいでだが、
なんの、危険な乱闘を繰り広げられるよりは何十倍もマシ。
皆様、今日も健やかにお過ごしくださいませと、
前庭にて秋の木洩れ陽を浴びておいでのマリア様が、
にこりと頬笑んでおいでの午後でした。






    〜Fine〜  14.10.04.


  *そういや ヘイさんも
   それほど頭脳判担当とばかりは言えないお人でして。
   薪割り流を覚えているからこその、あの旗さばきなのかもですね。

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